長い影と短い距離【自作小説】

わたし、秋山亜美は共学の高校に通っている二年生で、陸上部の一員だ。専門は100メートル走だけど、正直なところ、まだまだ成績は振るわず、ほとんどの大会で補欠の位置に甘んじている。

ところで、わたしの髪は学校生活ではいつもストレート。しかし、部活では邪魔にならないようにポニーテールにしている。これが、ある日を境に、わたしの日常に小さな変化をもたらした。

その日、わたしはトラックを何周も走った後、火照った顔を冷ましながらトラックの端で休んでいた。すると、同じく短距離を専門とする同学年の悠介が「その髪型、似合ってるね」と語りかけてきた。彼は普段から落ち着いた雰囲気で、部活でも静かに、しかし一生懸命に練習に取り組む姿が印象的だ。この彼の一言からわたしは、彼に対して淡い感情を抱くようになった。

初夏のある日、部活が終わりかけの時間に、ふとしたことから部室で悠介と二人きりになった。部屋は夕日で柔らかく照らされており、外の空は紅に染まり始めていた。悠介はわたしの存在を意に介することなく、練習後の汗を拭きながら着替え始めた。

わたしはその場にいることが恥ずかしくなり、スマホに集中しているふりをした。そんなとき、彼が再び言った。「やっぱりその髪型、似合ってる」。わたしはハッとして彼を見上げた。彼はすでに半袖の制服に着替え終えており、腕に浮かんだ幾筋もの血管が、夕日に照らされて美しく映えていた。

数秒の沈黙の後、悠介は照れくさそうにこちらを見て、「ねえ、秋山さん。亜美ちゃんって呼んでいい?」と言った。その瞬間、わたしの顔は熱を帯び、心臓の鼓動が早くなるのがわかった。わたしは動揺を隠すこともできず、小さく何度も頷いた。

その日から、わたしは「亜美ちゃん」として、彼と少しずつ距離を縮めていった。部室での些細な会話、トラックですれ違いざまに見る横顔、穏やかで優しい声。それぞれが、わたしにとって大切な一瞬となっていった。

夏が深まるにつれ、わたしたちの距離も少しずつ縮まっていく。その距離がどうなるのか、それはまだわからない。しかし確実に言えることがある。それは、わたしは今、光の中にいるということだ。